日本語の語源を知る 〜目からうろこの語源書〜

プロフィール: 江 副 水 城(えぞえ みずき)、 出身地:熊本県 、学歴: 東京大学 法学部卒 、 趣味:麻雀、言語研究 、著書:『魚名源』 『鳥名源』 『獣名源』 『蟲名源』 『草木名の語源』

【ありがとう】の語源

 アリガトウは、感謝の気持を表現するときに使う言葉で、英語のサンキュー(thank you)、ドイツ語のダンケ(dan

ke)、フランス語のメルシー(mer ci)、

ロシア語のスパシーバ(Спасибо)、中国語のシィエシィエ(謝謝)の意味です。

 

 一音節読みで、盎はアンと読み、程度が著しいことを表現するときに使われるので、大抵の場合「とても、非常に、著しく」の訳語が適当です。

礼はリと読み「礼儀作法」のことでもありますが、相手の親切、好意、もてなし等に対して感謝の意を表すこともその中に含まれます。礼言は感謝の言葉、あるいは、「お礼をいう」こと、礼物は感謝の意を表すために送る品物のことです。

感はガンと読み「感謝、感謝する」の意味があります。

答はタと読み「答謝、答謝する」の意味です。答謝とは、相手の親切、好意、もてなし等に対して、言葉その他の形で「感謝の意を表示する」ことをいいます。

於はウ、矣はイ、呀はヤと読み、語尾に付く感嘆の語気助詞です。

したがって、アリガタウとは、盎礼感答於(アン・リ・ガン・タ・ウ)の多少の訛り読みであり、直訳すると「とても、お礼すべき、感謝すべき、意を表示します」、簡潔にいうと「とても感謝します」の意味になっていて、これがこの言葉のほんとうの語源です。

アリガタイは、語気助詞が矣に代わった盎礼感答矣であり、歌の文句にもあるアリガタヤは、語気助詞が呀に代わった盎礼感答呀になっています。 

 

 一般に流布されている説では、アリガタイとは「有り難い」、つまり、「有るのが難しい」の意味であるとされています。しかしながら、「有るのが難しい」ということは、極言すれば「ない」ということですから、これをサンキューやダンケの意味に解釈するのは、いかにも無理なことといえます。

また、日常生活において、字義どおりの「有り難いこと」は、「有り得ること」と同じくらいに普通に存在することであり、サンキューやダンケの意味のアリガトウを「めったにないこと」と解釈するのにも疑問符が付きます。ということは、このような説は、インチキ、イカサマらしいことを示しています。 

したがって、この言葉に「有難(ありがた」を当て字することは一向に構わないとしても、その字義を加えて説明することは適当ではなく、誤りといっても過言ではないのです。

 

 枕草子第七五段の「ありがたきもの」には、次のように書かれています。

「舅(しゅうと)にほめらるる婿(むこ)。また、姑(しゅうとめ)に思わるる嫁の君。毛のよく抜くるしろがねの毛抜き。主そしらぬ従者。中略。おとこ、女をばいはじ、女どちも、契りふかくて語らふ人の、末までなかよき人かたし」。

「ありがたきもの」、つまり、字義通りの「有難きもの」とは、ここに挙げられたようなもののことであり、サンキュー、ダンケ、メルシー、スパシーバ、謝謝等の意味ではあり得ないのです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。