日本語の語源を知る

日本語の語源を紹介します。日本語は漢字を基本的な素材としてつくられてきた言語です。古事記や日本書紀を読むと、この頃も盛んに言葉がつくられていたことが随所に記載されています。日本語の本質の一端を垣間見るということで、寛大なお気持ちでお読み頂ければ幸甚です。

【ねぶた・ねぷた】祭の語源

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 青森ねぶたは、勇壮で美しい巨大な人形灯篭を中心に踊り手たちが一塊(ひとかたまり)となった数十組の集団が街中を練り歩く、全国的に有名な夏の行事で、八月の上旬に行われます。このような有名な行事ですから、まずは、「ねぶた」とはどういう意味なのかという質問が当然にでてきます。

一音節読みで、念はニィエンと読み、その多少の訛り読みが、ねぶたの「ね」です。とは「声を出していう」ことで、例えば、声を出して経を読むことを念仏といい、声をだして本を読むことを念書といいます。この行事に参加した踊り手を「はねと」といいますが、はねと達が、舞い踊りながらラッセラー、ラッセラーと威勢のよい掛け声を唱えながら「囃(はや)す」ことが、とりもなおさず「念」なのです。はウと読み、その日本語読みの「ブ」がねぶたの「ぶ」であり「舞い踊る」の意味です。この行事では、華やかな衣装や花笠で着飾った、たくさんのはねと達が「舞い踊る」ことによって、雰囲気を一段と盛り上げるのです。

はタンと読み、その多少の訛り読みが、ねぶたの「た」であり、「担(かつ)ぐ」の意味です。この行事に登場する勇壮で美しい灯篭人形をみんなで「担ぐ」ことなのです。現在では、これらの灯篭人形が大形化していることもあって、台車に載せて引かれるのが普通ですが、記録によれば、昔はみんなで担いでおり、小さな路地にも入り込んで練り歩くことができたとされています。

 つまり、「ねぶた」とは、この夏の行事の基本的な三つの要素である「念、舞、担」をつなぎ合わせたものの読みからできた言葉になっています。直訳すると「囃し、踊り、担ぐ(祭)」という意味で、これがこの言葉の語源です。

 以上から、分かるように「ねぶた」とは灯篭人形そのもののことではありません。したがって、ねぶた祭の出し物である灯篭人形は、むしろ「ねぶた灯篭」または「ねぶた人形」といった方がよいと思われます。そして、これらの「ねぶた灯篭」または「ねぶた人形」を舞い踊りながら練り歩くことが「ねぶた流し」なのであり、最後にはこの灯篭や人形を川や海に流すのは「ねぶた灯篭流し」または「ねぶた人形流し」なのです。

 さて、ラッセラーとは一体なんのことでしょうか。この意味を知っている人はいないようですが、殆んどの人形が勇壮な武将の戦闘絵になっていることから判断できます。一音節読みで、はランと読み、指示または命令の意味を表わします。はツと読み「刺す、刺殺す」の意味、はセと読み「射る、射殺す」の意味、了はラと読む語尾に付く語気助詞になります。つまり、ラッセラーは、「譲刺射了」の多少の訛り読みであり、直訳すると「刺殺せ射殺せ」という物騒な指示命令の意味になっており、これがこの囃子言葉の語源です。簡単にいうと「やっつけろ」という意味になります。このことは、そもそもの漢字では、「ねぶた」は「侫武多」と書かれてきたようであり、「武」の字が使われていることからも推測されます。 

 この祭りは、弘前でも行われますが、こちらでは、「ねぶた」ではなくて「ねぷた」といい、弘前を付けて「弘前ねぷた」といいます。「青森ねぶた」との顕著な違いは、「弘前ねぷた」では灯篭人形が扇形になっていること、掛け声が違うこと、踊りは付かなくて灯篭人形をにぎやかに引廻して歩くことにあります。

 「ねぶた」と「ねぷた」で、「ぶ」と「ぷ」の違いは、行動の顕著な違いの一つである「舞」と「歩」との発音の違いです。つまり、「舞(おど)り」がつかず、「歩いて」引廻すだけの場合は「ねぷた」なのです。歩は、一音節読みでは、「ぶ」とも「ぷ」とも読めるのですが、正しい音読は清音読みの「ぷ」です。したがって、ねぷたとは、念歩担であり、直訳すると「囃し、歩き、担ぐ(祭)」の意味であり、これが「ねぷた」の語源です。

 以上から、その言葉の意味を漢字で表すとすれば、青森は「念舞担(ねぶた)」、弘前は「念歩担(ねぷた)」になります。

そもそも、「ねぶた流し」や「ねぷた流し」における「流し」のほんとうの意味は、街中を「練り歩く」ことではないかと思われるのです。現在では「タクシーを流す」のように使います。人形灯篭は、最終的には川や海に流すので、事実問題として、当然に、その「流す」の意味もあることは考えられます。つまり、「流し」とは、「練り歩く」ことが本来の意味であり、「川や海に流す」ことは付加された意味であって、強いていえば掛詞になっていると思われます。

 現在、通説とされている「ねぶた」や「ねぷた」の語源説があり、テレビ(television)のクイズ(quiz)などにも出題されて宣伝されています。しかしながら、「眠た」であるというような語源説を、いつ誰がいいだしたのか分かりませんが、はっきりいってこの通説はどうかと思われます。福岡博多のドンタク祭りの「ドンタク」や高知のヨサコイ節の「ヨサコイ」の語源説なども、その部類に入ります。